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  • 日本基督教団 仙台東教会

風媒花通信 2020年4月号 創刊第14号

孫との記念撮影に上京した折、久々に「展覧会の絵」を観たいと思い立ち、上野まで足を伸ばしました。ヒュッゲ(Hygge)ということば。デンマーク語だそうです。「ハマスホイとデンマーク絵画」(東京都美術館で開催中)ではじめて知りました。「ヒュッゲ」は日本語には正確に訳すことができないそうです。「居心地のよさ」とか、「ほっとくつろげる心地よい時間、またはそんな時間を作り出すことによって自然と生まれる幸福感や充実感」などと解説する人もいます。

「19世紀末デンマークの画家たちが描き出した北欧の美しい自然やそこで暮らす人々、プライベートな空間でくつろぐ家族など“何気ない日常に隠れたささやかな幸福” のイメージには、デンマーク人が大切にしている価値観 “ヒュゲ(hygge:くつろいだ、心地よい雰囲気)” が息づいています。」(解説より引用)「北欧のフェルメール」とも称されるデンマークを代表する画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ。この画家の名も作品も初めて知りました。

 「静謐」な作風。作品には人物よりも室内の「空気」を描くとでもいうのでしょうか。その作風を「ヒュッゲ」と解説していたのです。

 人物はむしろ後ろ姿で描かれるだけで、人物はその空間のヒュッゲを堪能している存在として、そこに佇んでいるかのようです。画家の感性を通じて伝わってくる心象風景は、リアリズム中心の写真とはまったく異なった「心地よさ」を生み出しています。そのまま、自分もその絵の中で何時間でも過ごしていたい、そんな感動が、いまもって続いています。

 『名もなき生涯』を観ました。戦争のさなかで生きた民衆の悲劇を淡々と描いています。わたしは舞台となったヨーロッパの貧しくも慎ましやかな風景が、北欧のヒュッゲと重なり合い、静かにかつ深くわたしの心のなかで蠕動(ぜんどう)しています。美しい田園は蹂躙され、そこに住む人びとは、時代に翻弄されていました。のどかであるべき牧草地には累々と虐殺された家畜の死体が残され、美しい田園は兵士たちの死体で墓場となっていたのでした。

 なぜ、わたしのなかで、ヒュッゲが慕わしいのか。考え続けています。

 ヒュッゲを求めてやまないのは、わたしだけではないはずです。この時代の多くの人びとは、人と人との「心地の良い世界」を求めているはずではないのか、と思うのです。

 原題は、A Hidden Life。ヒトラーへの宣誓を拒否したことでギロチン刑に散ったフランツ・イエーガーシュテッターは死後も久しく批判され続けていたからです。妻も「村八分」にされてしまう。(歴史の表舞台に登場しないフランツのような「無告の民」こそが、実は世界を支えているのだ)、と映画の最後にジョージ・エリオットのことばが引用されます。

 フランツがこよなく愛した日常の小さな幸福。まさにヒュッゲの心そのものだった。このヒュッゲを守りたい。わたしはそう強く思いました。


ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》

1898年 スウェーデン国立美術館蔵 


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